不動産共有持分の取り扱い 一部譲渡に潜む罠とは
この記事では、不動産の共有持分に関連した債権回収の訴訟を検討します。依頼者(債務者側)は和解を望んでいましたが、彼らの不動産共有持分が仮差押えされていることが大きな障害でした。この訴訟の背景、交渉の課題、そして最終的な解決への道筋を詳細に解説し、共有持分の法的複雑性とその潜在的なリスクについて深く掘り下げます。
※この記事は2022/07/15にラクーンレントメルマガで配信したものを加筆修正したものです。
不動産共有持分に関する訴訟
※守秘義務との関係で一部事実を変えて記載します。
先日、知り合い経由のご相談で、債権回収の訴訟を受任いたしました。
こちらの依頼者は債務者側(被告)で、債権者(原告)の主張に争いはなく、現実的な支払い計画で和解できれば良いというご意向でした。
そのため、法的な反論や依頼者の資力等を踏まえつつ、減額交渉を試み、分割払いでの和解の成立を目指すとの方針を立てましたが、こちらには、1点、大きな弱みがありました。
それは、訴訟前に、 依頼者の親族が居住している不動産の共有持分(依頼者が有している3分の1)が“仮差押え”されていた ということです。
※「仮差押え」とは、原告が提起する金銭請求等の訴訟が終えるまで、被告の財産確保のため、被告が売却や贈与等による処分等をすることができなくなる裁判所を介した法的措置のことをいいます。
そのため、こちらとしては、和解できなければ、判決となり、当該共有持分が強制執行により競売にかけられ得ることから、親族の居宅を守るために、何としても和解を成立させる必要がありました。
しかし、依頼者の資力等を踏まえつつ、減額を試みたところ、 債権者側(原告)より、仮差押えしている共有持分を買い取ってくれる業者が見つかり、 その査定額が訴訟の請求額より大きいことから、 減額には応じる意向はないとの話を受けました。
債権者側(原告)としては、判決にいけば請求金額の全額が認められることから、現在、共有持分の買取業者の見積りが出ている以上、当該買取業者への売却で金銭を賄えば足り、譲歩する理由がないという主張です。
確かに、債権者側(原告)が見積もりをとった共有持分譲渡の金額は、相当に高額であり、訴訟での請求金額を上回るものでした。しかし、本当に共有持分を当該業者に譲渡してよいのでしょうか・・・?
共有持分譲渡の怖さ
共有不動産は数多く存在しますが、共有状態だと、各共有持分権者が行うことができる事項が限られます。
例えば、 共有不動産の処分(売買・贈与等)には共有者全員の同意が必要(民法251条)ですし、共有不動産の賃貸借契約の締結・解除 などは、各共有者の持分の過半数により決する必要があります(民法252条本文)。
そもそも、第三者である不動産業者が、親族間で共有持分を有している不動産の共有持分の一部を譲受すること自体に違和感はあったのですが、上記の共有状態の制約を考慮しても、債権者側(原告)の言う共有持分の一部を譲受するという業者の目的が不可解であり、調査することとしました。
その結果、あくまで一つの可能性ですが、当該業者が他の共有持分権者に対し、 高値で当該共有持分を買い取ることを強制し得るということがわかりました。
以下、少し詳細にご説明します。民法上、“共有物分割請求” という権利があります(民法256条1項本文)。
共有物分割請求とは、共有関係を解消して単独所有に移行させることをいいますが、 その方法は、複数あり、その一つに、自己の共有持分を他の共有者に賠償させることにより、共有持分を譲渡するという方法が認められています。
これは、協議が原則ですが、協議が整わない場合、裁判所に申し立てることが可能です。
この裁判手続を利用することにより、事実上、強制的に、他の共有者に自己の共有持分を買い取らせることが可能となります。
その共有不動産が、他の共有者が長年居住している居宅などであれば、その他 の共有持分者は多少高値であっても買い取らざるを得ないというわけです。
もちろんケースバイケースですが、業者によっては、金策に困った方の不動産共有持分を安く買い取り、後に、共有物分割請求により、他の共有持分権者から高値で当該共有持分を買い取ってもらうことを目的としていることがあり得ます。
上記の訴訟の件に戻ると、仮に原告の提案に応じていれば、 自らの債務のために不動産共有持分を譲渡したばかりに、当該不動産に居住し、かつ、共有持分を有する親族に多大な損害を及ぼしてしまうことになる可能性が潜んでいたということです。
なお、最終的に、上記の訴訟では、この共有持分権の譲渡のリスク・デメリットを依頼者に説明し、他の方法により金銭を調達し、可能な範囲での和解をすることができました。
最後に
日常的に不動産分野の業務に携わっていると、相続により共有状態になった不動産や、夫婦で共有状態としている不動産などを頻繁に見かけます。
そして、今後も、相続や家族の在り方の変化等により、共有不動産は増えていくとも考えられます。
共有状態は、一見、各人がそれぞれ権利を有しているバランスの良い状態に見えますが、上記のとおり、共有者単独でできる行為には限りがあります。
また、今回説明した共有持分の一部譲渡のように、一人の共有者の行為により、 他の共有者が多大な損害を被ることもあり得ます。
編集部追記:この記事のまとめ
背景と事案の概要
今回のケースは、債権回収の訴訟で、債務者側(被告)は、債権者(原告)の主張には異議がありませんでしたが、和解による解決を望んでいました。
しかし債務者側の依頼者は、その親族が居住する不動産の共有持分(依頼者の所有する3分の1)が仮差押えされていました。
仮差押えの意味と影響
「仮差押え」とは、訴訟が終わるまで被告の財産を確保するため、被告が財産を売却や贈与により処分することを禁止する措置です。
和解が成立しなければ、当該共有持分が強制執行により競売にかけられる可能性があるため、依頼者にとっては親族の居宅を守るために和解が必要でした。
交渉と課題
減額交渉を試みましたが、債権者側は共有持分を買い取る業者を見つけ、その査定額が訴訟の請求額よりも高かったため、減額に応じる意向はありませんでした。
共有持分譲渡のリスク
共有不動産の処分や賃貸借契約締結・解除には特定の条件が必要です。第三者が共有持分の一部を譲り受けることのリスクを調査し、業者が他の共有持分権者に対し、高値で当該共有持分を買い取ることを強制する可能性があることが明らかになりました。
結論と解決
最終的に、依頼者に共有持分権の譲渡リスクを説明し、他の方法で資金を調達し、和解が成立しました。このケースは、共有持分の複雑性と、法的なアプローチの重要性を示しています。