ChatGPTを利用した法律相談の解説 弁護士が実際に家賃トラブルについて聞いてみた
※この記事は2023/05/15にラクーンレントメルマガで配信したものを加筆修正したものです。
ChatGPTとは?
ここ数年、AIの台頭が著しいのは周知の事実になっておりますが、今年に入り、特にChatGPTがバズっている印象があります。
ChatGPTとは、AI開発を行っている米国の非営利団体である「Open AI」により、2022年11月30日にプロトタイプとして公開されたもので、質問者からの幅広い分野の質問に対して、AIが詳細な回答を自動で生成してくれるサービスです。
これまではAIというと機械的なイメージがあったと思いますが、ChatGPTでは、人間が自然と感じる回答が生成されることに大きな特徴があります。
他方で、自然と感じる回答の中には誤った情報が混入することが多いといった欠点もあるようです。
「将来的には、AIの台頭によって、ホワイトカラーのほぼ全ての仕事がAIに取って代わられ、弁護士もその例外ではない」とは、ちまたではよくいわれておりますが、現時点の技術は、果たしてどうなのでしょうか。
実際に、ChatGPTを使用して、賃貸トラブルに関する法律相談の質問を投げかけてみました。
具体的には、弁護士相談サービスでも特にご相談が多い賃料滞納に関して、下記質問をしました。
質問内容:
「私が賃貸する物件の賃借人が1ヶ月分の賃料を滞納しておりますが、賃貸借契約書を解除することはできますか。」
弁護士としての回答
まず、ご参考までに、質問に対する弁護士としての回答の一例を示すと、以下のとおりになります。
① 賃貸借契約では、賃借人は賃貸人に賃料を支払うべき義務を負いますので、賃借人が賃料を滞納することは契約違反(=債務不履行)になります。そのため、賃借人に相当の期間を定めて賃料の支払を催告したうえで、当該期間内に賃料の支払がない場合には、原則として、賃貸人による賃貸借契約の解除が認められます(民法541条本文)。
② しかし、賃貸借契約は、賃貸人との賃借人との信頼関係を基礎とする継続的な契約であるため、判例では、賃料の滞納があっても、賃貸人と賃借人との信頼関係が破壊されない特段の事情がある場合には、例外的に、賃貸人による解除は否定されております(最判昭和39年7月28日等)。信頼関係の破壊の有無は、不払いの程度・金額、不払いに至った経緯、契約締結時の事情、過去の賃料支払状況等、催告の有無・内容等を総合的に考慮して判断されますが、過去の裁判例では、3ヶ月分の賃料の滞納があった場合に、賃貸人による催告解除を肯定したものが多く存在します。
③ 本件では、1ヶ月分の賃料の滞納しかないため、それのみでは、信頼関係が破壊されたとまではいえず、賃貸人による解除は認められない可能性が高いといえます。
法的な見解は以上になりますが、実際の法律相談では、上記見解を前提にして、賃借人に賃料の滞納以外に信頼関係を破壊するような行為が見受けられなかったか、今後賃料の支払の見込みはあるのか等の具体的な事情をヒアリングして、相談者のニーズに応じて、今後の方針を立てることになるかと思います。
ChatGPTの回答
これに対して、ChatGPTの回答は、以下のとおりでした。
質問:
私が賃貸する物件の賃借人が1ヶ月分の賃料を滞納しております。
賃貸借契約書を解除することはできますか。
回答:
賃貸借契約においては、原則として家賃を認めない場合、大家は契約解除権を有します。一般的には、賃料滞納の期間や滞納額によって、解除の可否が決定されます。例えば、入居者が家賃滞納をした場合、契約書に定められた通知期間を経て、解除通知を出すことができるとされています。一方、滞納期間が短い場合には、解除まで至らない場合が具体的には、入居者に対して最初の催促を行った後、2週間以上の期間が経過しても支払いがない場合は、権限の解除が生じる場合があります。
ただし、賃貸借契約書の金額や地域の法律によって異なる場合があるため、契約書の確認や方法のアドバイスを受けることをおすすめします。
いかがでしょうか。法律や判例等の根拠がやや薄く説得力に欠ける印象はありますが、①賃料の滞納がある場合には、原則として、賃貸人は契約解除権を有すること、②ただし、賃料の滞納期間や滞納金額によって、解除の可否が変わってくること、③滞納金額が短い場合には、催告を行う必要があること等の説明がされており、大筋では誤っていないようです。想定以上の回答が返ってきて、大変驚きました。
ただ、法律や判例等の根拠がやや薄い点がやはり気になりましたので、裏付けとなる裁判例の見解について質問をしたところ、以下のとおりの回答がありました。
質問:
裁判例だと、どのくらいの賃料の滞納があった場合に、賃貸借契約の解除が認められていますか。
回答:
裁判例によっては、賃貸借契約の解除が認められた事例がありますが、その滞納額や期間に関する基準は一定ではありません。
滞納額が2ヶ月分以上の場合:
例えば、大阪地方裁判所において、滞納額が2ヶ月分以上に達した場合には、賃貸借契約を解除できるという判例があります(大阪地方裁判所昭和57年9月30日)。
滞納期間が1ヶ月以上の場合:
東京地方裁判所において、滞納期間が1ヶ月以上続いた場合には、賃貸借契約を解除することができるという判例があります(東京地方裁判所平成25年4月26日)。
入居者の事情や払い込みの意思がある場合:
京都地方裁判所においては、入居者が払い込みの意思を持っていた場合には、滞納期間や滞納額にかかわらず、賃貸借契約を意思決定することができないという判例があります。
(京都地方裁判所平成22年9月14日)
規則、判例によってもその基準は一定ではなく、滞納額や期間だけでなく、その他の事情によっても解除の可否が判断されます。また、判例は引き続き一例であり、裁判所によって判断が異なることもあります賃料滞納が発生した場合には、入居者と申立を行いながら、弁護士や行政書士などの専門家に相談することが重要です。
1分間に満たない短時間で、三つの裁判例があげられており、「これは、かなりすごいのでは!?」との期待を抱きましたが、試しにそのような裁判例が実際に存在するのか複数の判例検索データベースで調べてみましたが、残念ながら、そのような裁判例は見受けられませんでした。
また、内容としても、賃料の滞納が1ヶ月分の場合にも賃貸借契約を解除できるとの東京地裁の裁判例があると記載されておりますが、仮にそのような裁判例があったとしても、賃料滞納以外にも例外的な事情(賃借人の迷惑行為等)が存在したのではないかと強く推測されます。
日付が若干ずれる等して、正確な裁判例があげられていない可能性がありますが、法律問題において裏付けとなる法律や判例があるのかどうかは最も重要なことであり、現時点では、ChatGPTの回答をそのまま鵜呑みにすることはリスクが高く、あくまでも参考程度に止めておいた方がよさそうです。
日本のリーガルテック企業の開発に期待!
以上のとおり、現時点では、ChatGPTの回答は、思考の整理や、短時間で論点をあげるといった意味では参考にはなるものの、実際に根拠があるのか、またその根拠が客観的に正しいのか等はかなりの不安が残るものであり、現時点では、その内容をそのまま鵜呑みにすることは避けておいた方がよさそうです。
しかし、ChatGPTは米国のサービスであるため、日本における法律や判例等のデータを十分に機会学習できていないだけの可能性もあり、いずれにしても今後無限の可能性が広がっていることには間違いありません。
この点に関して、弁護士がWeb上で無料相談に応じる「みんなの法律相談」を運営する「弁護士ドットコム」が、ChatGPTを使用した新たな無料法律相談サービスを開設することをリリースしており、また、「Call a Lawyer」という企業がボタン一つで弁護士AIに相談できる通話アプリ「Call a Lawyer」を先行公開したことがリリースされております。
このように日本のリーガルテック企業が、ChatGPTを利用して法律相談サービスの開発を進めることで、法律問題で困った方々が弁護士ではなくAIに法律相談をする未来もそれほど遠くないのかもしれません。
最後に、ChatGPTには個人情報やプライバシーの観点で弊害があることが指摘されておりますので、皆様もご利用にあたっては、自らの個人情報を安易に入力されないように十分に気を付けてください。