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コラムColumn

相続放棄とは 基本的なルールと注意点の解説

前田 祥夢
弁護士法人東京新橋法律事務所
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相続放棄とは 基本的なルールと注意点の解説

相続放棄する場合、財産だけでなく負債も引き継がない仕組みですが、財産の管理責任は一定期間残ります。また、相続放棄ができる期間は限られており、特に空き家が関わる場合には様々な制限や責任が伴います。この記事では、相続放棄の法的な側面とその注意点を詳しく解説します。

※この記事は2022/07/15にラクーンレントメルマガで配信したものを加筆修正したものです。

相続放棄に関する基本的な法律のルール

相続放棄とは、皆様もご存知の通り、本来相続人となる親族が、相続人とならなかったものとみなされる法制度です。プラスの財産もマイナスの負債も、全て引き継がない仕組みですね。これに関連して1点重要なルールがあり、相続放棄者は、他の相続人や放棄によって新たに相続人となった者が、相続財産の管理を開始できるまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって相続財産の管理を継続しなければならない、というルールです。

要するに、空き家が相続財産として存在する場合、相続放棄した後も、しばらくはその空き家を管理しなければならないのです。

しばらくは、というのが問題で、相続人が他にいる場合は、その相続人が管理を開始するまでの間を指すので特に問題はないのですが、他に相続人がいない場合は、相続財産管理人が選任されるまでの間を指します。

相続財産管理人について、選任手続きに費用と時間を要しますが、実際の空き家では相続財産管理人が選任されることなく、いわばそのまま放置される例も少なくありません。

しかし、その場合は、いつまでたっても相続放棄者の管理責任が無くなりません。なお、改正民法の中で、相続放棄した時点において空き家を現に占有している場合に、上記管理義務が生じる旨が明記されます。

他方、相続放棄できる期間には限りがあります。相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、相続放棄をする必要があります。

この3か月のことを俗に熟慮期間と言いまして、相続放棄をするのか否かよく考える期間ということになっています。「自己のために相続の開始があったことを」知った時とは、基本的には、被相続人が亡くなって、自己が相続人であることを知った時のことを指します。

参照民法第九百四十条 | e-Gov法令検索

相続放棄の注意点

①単純承認にならないように

相続放棄をする迄の間に、空き家の一部を取り壊したりしてしまうと、単純承認といって、相続財産である空き家を相続したことになってしまいます。

つまり相続放棄をする事ができなくなります。そのため、空き家を何らか管理等するに際しては、処分ではなく保存行為の限度にとどめるべきです。

具体的には、

  • 空き家の破損箇所の修繕
  • 雑草木の伐採、堀や工作物の補修
  • 耐震検査
  • 固定資産税の納付
  • 不法占拠者に対する返還請求

などは、保存行為であり、これらの行為を行っても単純承認にはなりません。

他方、相続財産が空き家しかないようなケースで、相続財産管理人の選任には費用も時間もかかるがゆえ、あえて空き家を相続して、その後取り壊すという発想もあると思います。余計な管理費を払い続けるくらいであれば、更地にした方が望ましいという発想もありますね。しかしこの場合も注意が必要で、被相続人に対する債権者が実は存在して、生前、被相続人に対しては何らかの事情で債権回収を諦めていたけれども、単純承認の結果、相続人に債務が引き継がれたなら話は別だと言って、その債権の請求や督促をしてくるおそれがあります。この場合、法律的には請求に応じる義務がありますので、空き家を取り壊した相続人としては、思わぬ負担を負うことになるでしょう。この債権の請求や督促を防ぐには、限界こそありますが、やはり被相続人の遺品を、書類等含めてくまなくチェックや、銀行口座の取引履歴をよく確認して、隠れた債権者がいないか調べるほかありません。

②3か月の熟慮期間を過ぎてしまった場合

被相続人に全く財産がないと思っていた場合や、負債が存在しないと思っていた場合等は、相続人としても、相続放棄をしようとは思いませんよね。

そういった場合に、実は被相続人が物置としてひそかに使っていた空き家が出てきた、となったら大変です。3か月の期間が経過していたら、もう相続放棄は出来ないのでしょうか。この点、結論として、3か月を過ぎても相続放棄できるケースもあります。相続放棄は、上述の通り、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月の間にできますが「自己のために相続の開始があったことを知った時」を「被相続人の死亡を知った時」よりも後である旨主張して、裁判所に認めてもらうのです。熟慮期間の起算点を後ろ倒すことになります。

実際にそれが認められた事例は様々ですが、相続財産や債務がないと信じていて、そう信じることに相当の理由があると認められるケース等が当てはまります。

③自治体の市町村長から管理責任を指摘された!

空き家の管理等について、平成26年に空き家特措法という法律が成立しました。適切な管理が行われていない空き家が防災、衛生、景観等の観点から問題がある点を踏まえて、行政が何をできるか等が規定されています。

その中で、例えば放置すると倒壊の危険があることや、衛生上いちじるしく有害になるような空き家について、行政は、それを管理する相続放棄者に対して、法律上の措置として、指導・勧告することができます。

この点、必要以上にこの指導や勧告を恐れる必要はないかと考えます。相続放棄者の管理責任は、あくまで他の相続人に対する責任であって、他の第三者に対して、特措法上の管理責任を負わされることはないと考えられるからです。また、管理の程度はあくまで自己の財産におけるのと同一の注意をもって管理すれば足ります。なので、行政担当者と誠実に話合いをし、上記保存行為の範囲内で対応すれば基本的に問題ありません。

以上、空き家を相続放棄する際の注意点について整理してみました。少しでも皆様の事業のお役に立てれば幸いです。

編集部追記この記事のまとめ

相続放棄とは

相続放棄は、本来の相続人が相続人とならなかったものとされる制度です。

相続放棄した場合も、新たな相続人が財産管理を始めるまで、旧相続人は財産を同一の注意をもって管理しなければなりません。

相続放棄できる期限は、相続開始を知った日から3ヵ月(熟慮期間)です。

相続放棄の注意点

単純承認にならないように: 空き家の一部を取り壊す等の行為は単純承認とされ、相続放棄ができなくなります。

隠れた債権者: 相続財産管理人の選任には費用と時間がかかるため、空き家を相続して取り壊す場合でも、隠れた債権者に注意が必要です。

3ヵ月の熟慮期間を過ぎた場合: 特別な事情があれば、期間を過ぎても相続放棄が可能な場合もあります。

自治体からの管理責任の指摘: 空き家特措法に基づき、行政から管理責任を指摘される可能性がありますが、必要以上に恐れる必要はありません。

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