高齢者の単身世帯にかかわる死後事務委任契約とは 残置物撤去を円滑に進める備えについて解説
高齢者の単身世帯が増える中、オーナーや不動産管理会社は、高齢者が賃貸物件での生活を終えた際の対応に悩むケースが増加。特に、死亡時の残置物の撤去や賃貸契約の解除に関する手続きが課題となっています。そこで、この記事ではこの問題を円滑に解決するための「死後事務委任契約」に焦点を当て、その内容と活用方法について詳しく解説します。
※この記事は2022/09/12にラクーンレントメルマガで配信したものを加筆修正したものです。
高齢者賃貸と空室リスクの関係性と契約の問題点
日々、オーナー様や管理会社の担当者様から、賃貸トラブルに関するご相談を受けておりますが、その中でも近年多くなっているのが、「高齢者の単身世帯の入居者が死亡した場合において、賃貸借契約の解除及び残置物の撤去をどのように進めるべきか」というご相談です。
高齢者の単身世帯が増加している中で、オーナー様にとって、空室リスクをできる限り回避するためにも、今後、高齢者賃貸は避けては通れないテーマになってくると思われます。
しかしながら、孤独死とは 相続人のいない高齢の賃借人が亡くなった場合の法的処理について(サイト掲載時のタイトル)でご紹介したとおり、高齢者の入居者(以下「高齢入居者」といいます。)が死亡した場合であっても、オーナー様や管理会社が残置物を勝手に撤去することは、自力救済として禁止されております。
相続人調査のうえ、相続人からの承諾を得たり、場合によっては、相続財産管理人の選任の申立て等の法的手続を取る必要があり、一連の調査から手続きによって、数か月から1年を超える空室リスクを負ってしまうことも珍しくはありません。
そのため、高齢入居者が死亡した場合の空室リスクを考慮すると、オーナー様の立場としては、高齢入居者に賃貸することに躊躇してしまうのも無理はなく、日本において、高齢者が希望する賃貸物件を借りることができないことが社会問題になっております。
死後事務委任契約とは
しかしながら、上記空室リスクについては、あくまでも、オーナー様が何の備えもなく、高齢者賃貸を行った場合に発生するものであり、当然のことながら、事前の備えによって、ある程度リスクヘッジすることは可能です。
その一つの手法として、賃貸人が高齢入居者との間で賃貸借契約を締結する際に、高齢入居者が、自ら希望する者との間で、自らが死亡した場合における①賃貸借契約の解除及び②残置物の処理に関してすべてを一任する内容の委任契約「死後事務委任契約」を締結したうえで、上記①及び②を当該賃貸借契約の内容に盛り込むことがあげられます。イメージ図は、以下のとおりです。
すなわち、高齢入居者(委任者)が自ら指定する者(受任者)との間で死後事務委任契約を締結すること等によって、万が一、高齢入居者が死亡した場合には、賃貸人は、受任者に対して通知をしたうえで、受任者において、死後事務委任契約の内容に従い、賃貸借契約を解除したり、残置物を撤去したり等の対応を取ってもらうことができるため、相続財産管理人選任の申立て等の煩雑な手続によることなく、円滑に賃貸物件の明け渡しを実現することが可能となります。
なお、具体的な死後事務委任契約書や賃貸借契約書の雛形については、国交省により「残置物の処理等に関するモデル契約条項」が示されておりますので、そちらが大いに参考になると考えております。
参考
住宅:残置物の処理等に関するモデル契約条項 – 国土交通省 (mlit.go.jp)
死後事務委任契約を利用する際の注意点
国交省によるモデル契約条項では、主に、単身の高齢者(60歳以上)が、推定相続人や居住支援法人との間で死後事務委任契約を締結することが想定されておりますが、
①単身の高齢者(60歳以上)以外にも、モデル契約条項を利用できるのか、
②推定相続人以外にも管理会社や賃貸人を受任者として指定することができるのか、
といったことが問題となります。
まず、上記①に関しては、「モデル契約条項は、高齢者に対する賃貸人の入居拒否感が強いことを踏まえて、賃借人の死後の契約関係の処理や残置物の処理に関するリスクに対する賃貸人の不安感を払拭することにより単身高齢者の居住の安定確保を図る観点で策定」されていることから、「残置物の処理等に関する賃貸人の不安感が生じにくい場面」、例えば、高齢者(60歳)ではなく若年層の場合、単身世帯ではなく高齢者夫婦等の二人世帯の場合、保証人が確保できる場合等には、「民法や消費者契約法に違反して無効となる」可能性がある点に注意が必要です。
参考
国交省ホームページ「残置物の処理等に関するモデル契約条項に係るQ&A Q1」
また、上記②に関しては、受任者としては、推定相続人が一番望ましいとされておりますが、「推定相続人の所在が明らかでない場合など推定相続人を受任者とすることが困難な場合」には、管理会社などの第三者を受任者とすることも可能とされております。
しかしながら、賃貸人自身を受任者にすることについては、賃貸人の利益と高齢入居者の利益とが相反し、委任者である高齢入居者の利益を優先した対応が類型的に期待できないことから、民法や消費者契約法に違反し、無効となる可能性がある点に注意が必要です。
(なお、管理会社であっても、サブリース業者として転貸人の地位にある場合には、賃貸人と同様に、民法や消費者契約法に違反し、無効になる可能性があるとされております。)
参考
国交省ホームページ「残置物の処理等に関するモデル契約条項に係るQ&A Q3~Q5」
おわりに
以上のとおり、死後事務委任契約の概要についてお伝えさせていただきましたが、冒頭でもお伝えしたとおり、高齢者の単身世帯が増えていく中で、今後、賃貸の対象を広げるためにも、時代に先行して、オーナー様が高齢入居者に安心して賃貸することができる環境を整えていくことが重要になってくるかと思います。
編集部追記:今回のまとめ
背景
高齢者の単身世帯増加に伴い、賃貸物件での高齢者の死後の手続きや残置物撤去が課題。
オーナーや管理会社は、高齢者の死亡時の対応で悩む事例増加。
高齢者賃貸と空室リスク
高齢者の死亡後、残置物の勝手な撤去は法的に問題。
空室リスクを考慮すると、高齢者の入居を避ける傾向が増加、これが社会問題化。
死後事務委任契約の活用
死後の残置物の撤去や契約解除などの事務を、高齢者が指定した第三者(受任者)に一任する契約。
これにより、煩雑な法的手続きを避け、円滑に賃貸物件の明け渡しが可能。
注意点
国交省のモデル契約条項を参照することが推奨。
委任者の利益と賃貸人の利益が相反する場合、契約が無効となる可能性あり。
結論
高齢者の増加を背景に、死後事務委任契約の理解と活用が今後の賃貸業界において重要となる。